平成29年3月に判決が確定した大阪市国保が行っていた、いわゆる相殺処理問題。全柔協が補助参加した裁判は「全面勝訴」となりましたが、この問題についてあらためて考えてみます。
突然の大量返戻と相殺処理
事の発端は平成25年3月頃に行われた、支給済みの平成23年度分のレセプトの大量返戻。そしてこの返戻分を全く関係のない平成25年5月の施術療養費から相殺されるというもので、その手法はまず点検業者が患者に照会文書を送り返送させ、不適切な請求と判断できれば施術者から承諾を得て返戻・相殺処理を行うというものでした。
全柔協としては以下の問題点を挙げて、大阪市に対して相殺処理をやめるように要望書や抗議文書を送りましたが大阪市の相殺処理は続き、点検もさらに続行されました。
問題点
- 相殺自体が医科の診療報酬債権(※)をもとにしており、柔道整復師の受領委任では療養費の請求権は患者にあり柔道整復師は受取代理人にすぎない。
- 患者は2年前の施術の詳細、負傷原因などを正確に覚えているのか。
※医科の診療報酬債権
健康保険法第61条で「保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差押えることができない」となっていますが、医師の診療報酬債権については昭和27年の国税庁長官通知によって、法が定める「保険給付を受ける権利」に含まれなくなりました。
全柔協は複数回、対策講習会を開催しカルテを確認するなどの注意を促す一方、原告となる患者を探すなど民事訴訟の準備を進めました。
そして平成26年に大阪市を相手取り大阪地裁に訴訟を起こしました。その結果、平成28年2月の地裁判決で、「(大阪市の行う)相殺処理は認められない」という趣旨の判決が下りました。3月には1審に続き2審でも原告が勝訴し、大阪市が上告しなかったことから1審判決が確定。相殺処理は適切ではなかったことが明確になりました。
対抗策はカルテ整備
この問題は、柔整の受領委任を医科の診療報酬と同じものとして扱ったことで起こったもので、大阪市国保の認識不足が原因だったといえます。これに対抗できたのは、やはりきちんとしたカルテを整備していたことに尽きます。カルテがなければ不適切な請求ではないことの主張すらできません。
今後、こういった認識不足の保険者が同じような問題を起こした時に正当性を主張するためにも、カルテの整備を怠らないことが大切です。